3人が本棚に入れています
本棚に追加
パンを焼いている間にコーヒーを入れ、電子レンジで少量のミルクを温める。温めたミルクをガラスの猪口に注ぐと、テーブルの上に後ろ足だけで座るはねこに差し出した。
「ミルクだけど飲める?」
はねこはそれを両手で受け取ると、猪口を傾げて飲み始める。一口だけ喉に通して、また口を三角にする。嬉しそうに二口、三口と進めていき、パンにバターを塗り終える前に、猪口の中は空になってしまった。
はねこは底に残る僅かなミルクを舌先で取ると、幸せそうに目を細めて息をついた。
「……もうちょっと飲む?」
おもわずといった感じで振り向いたはねこは、刹那、我に返ったように首を振った。
路恵は猪口をはねこの手から取り上げると、新しいミルクを温め、それに蜂蜜を少しだけたらす。
黙ってはねこに差し出せば、小さな前足は逡巡として、こちらを窺いながら猪口を受け取った。
舌先でまだ熱いミルクを舐めれば、丸い目がさらに丸くなり、台形の尻尾は忙しなく上下し始める。
「美味しいですねぇ」
「……そ?」
「とっても美味しいですぅ」
大きな目が線になって、鼻の横から伸びる髭は、だらしなく下がっている。時折、右の耳だけが、左右に小さく動く。
その様子をそっと横目に眺めながら、路恵は機嫌良くパンをかじった。
最初のコメントを投稿しよう!