-3-

3/5
前へ
/65ページ
次へ
 朝食を終えると、路恵はシンクの前に立ち、食器を洗い始めた。猪口やカップぐらいはすぐに洗い終わり、久しぶりの休みだからと、排水口やコーナーの掃除を始める。  はねこは路恵の周りを飛び回りながら、その手元を覗き込んだりしてくる。 「……邪魔」  睥睨すると、尻尾を少し膨らませ、耳を後に倒しながら体を丸くする。首根っこを掴んで歩き出せば、はねこは抵抗せずに、路恵の歩く方に羽を羽ばたかせた。  テレビを付け、その前のクッションに座らせる。 「そこで大人しくしてて。すぐ終わるから」  はねこは後ろ足だけでクッションに座り、体を傾けて路恵を振り返っている。若草色の瞳がずっと自分を追っていることに気がついても、路恵は振り向こうとせず、力任せにシンクの中を磨き始めた。 (なんであたしが気を遣わなきゃいけないわけ?)  聞こえてくるテレビは、聞き覚えのある音楽と、騒々しい様子を伝えている。ちらりと視線を上げて見ると、ディズニーランドの紹介をしているようだった。踊るディズニーキャラクターたちに、煌びやかなパレードの様子。  小さな後頭部と背中の羽は、少しも動かずにいる。片づけを終えて背後から忍び寄っても、瞳に映したその風景に魅入られたままだ。  路恵はわざと大きな音を立てて、ベッドの上に腰を下ろした。  瞬間的に膨らんだ台形の尻尾が、はねこの動揺を教えてくれる。それでもはねこは、目を細めて路恵を見つめてきた。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加