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「……それで、アンタはどうやって、あたしを幸せにしようっていうの?」
大きな目がゆっくりと瞬いて、右前足を頬につけると、えへっと笑い声を上げて首を傾げる。すかさず路恵の右中指がはねこの額を直撃する。
はねこは耳を伏せて、両前足で額を抑えながら、瞳を潤ませた。
「まあ、誰かに幸せにしてもらおうなんて、思ってないけどさ」
「そうですよねぇ」
「……アンタが頷いてどうすんのよ」
頷く小さな頭。横から伸びる髭を引っ張ると、前足を左右に広げて、ばたばたと上下させる。その手を離せば、はねこは髭の付け根を前足で擦った。
ベッドに転がって外を眺めると、窓からは青空が見えた。薄雲が所々に広がり、風があるのか、ゆっくりと流れていっている。
はねこは路恵を眺めていたが、テレビが気になるのか、目線が横に動いていく。ちらちらと、何度も若草の瞳が横に動く。
「テレビ、面白い?」
はねこの視線が慌てたように戻り、また首を傾げてみせる。猫の表情などわからないが、路恵には、どこか困っているように見えた。
ミルクをあげたときといい、はねこは過剰な遠慮ばかりする。
「今日はこれからどうするんですかぁ?」
仕事に行くはずだった路恵に、予定があるわけはない。まだパジャマなのを良いことに、このまま寝て過ごしても悪くないと思う。
頭の上では、騒がしい音楽が鳴り続け、相変わらずはねこは、興味津々に見つめている。
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