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 だけど家の外壁には、真新しい傷がいくつも付いていた。それはあたしの部屋の真下になる場所。鳴かない猫が、たった一度だけあたしを呼んだ。  どうして見に行かなかったんだろう。どうして押入れの中を確認しなかったんだろう。どうして。どうして。 「はねこぉ……」  名前を呼んでみても、兎のように飛び跳ねる猫は、それから一度も姿を見せることが無かった。  後悔ばかりが渦巻いて、自分が情けなくて、くやしくて、涙も出てこない。  襖の縁は傷だらけのまま、あたしはその歳に高校を卒業して、はねこのいない家を出て行った。
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