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 どうしてこんなことになってしまったのだろう。川村路恵(かわむらみちえ)は重い頭を抱えながら、昨夜の記憶を辿っていく。  定時で仕事を終え、職場の同僚たちと夕飯を食べに行った。その時、何を食べただろうと考えて、路恵は軽く頭を振った。  それと同時に頭は割れるように痛み出し、胃腸が奇妙な音を立てながら、喉元にすっぱいものを押し上げてくる。  路恵はふらつく足で洗面所に駆け込み、既に口内まで達しているものを吐き出した。しかし出てくるのは胃液ばかりだ。胃の中のものはすでに消化されたか、先に出つくしてしまったのだろう。  洗面所の縁に手をかけ、路恵はその場で力尽き、膝をついた。 (思い出すのは食事の内容なんかじゃない)  彼女は頭痛の治まらない頭で、その後の経路を思い出そうと、眉間に皺を寄せる。  しかし夕食後に行ったバーの後が、どうしても思い出せない。いったいいつ同僚たちと別れ、どうやってアパートまで帰ってきたのか、その断片すら記憶に残っていない。  今までどれだけ飲み過ぎても、ここまで見事に忘れてしまうことはなかった。  それなのに、と彼女は胸中深く呟く。 「あのう、大丈夫ですかあ?」  頭のすぐ後で聞こえてくる、少し間の抜けた声に、彼女は思わず拳を握りこんだ。  すぐに振り向こうにも、揺さぶられるような気持ち悪さに、自ずと動きは鈍くなってしまう。  その声の主に視線だけでもぶつけてみれば、相手はびくりと怯えたように震え、小さな身体を更に丸く縮ませる。
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