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「……アンタさー。いったい何?」  猫がぴんと耳を立てて、涙を浮かべた瞳で路恵を見つめる。前足で涙を拭う姿に脱力しそうになりながら、路恵はどうにか猫を見つめ続けた。 「僕はですねぇ、幸せ配達人なんですよぉ」 「……は?」  どこか呆けた声で聞き返す路恵に、猫は首を傾げてみせる。 「幸せ配達人なんですぅ」  頭が真っ白になるというのは、こういう時のことかと、路恵は戻ってきた頭痛と共に思った。一瞬、頭の痛みすら忘れてしまったその言葉に、胡散臭げな視線をぶつける。 「あー、信じてないですねぇ!」  羽の生えた猫が目の前にいること事態、かなり奇異な出来事に遭遇しているとは思う。  しかし、「幸せ配達人」などと、どこかの悪徳商法のようなことを言われて、はいそうですかなどと納得できない。 「……で、その幸せ配達人ってのは、何してくれるわけ? この二日酔いでも治してくれるの?」  投げやりに問いかけてみれば、猫は山形の口を更に上げて、笑うような表情を浮かべる。 「軽くすることはできますよぉ」  前足が、路恵の額に触れる。冷たい肉球が気持ち良いなと思っていれば、あれほどうるさく鳴り響いていた頭の騒音が、徐々に遠ざかっていく。胃腸も奇怪な動きをやめ、胃液を押し上げることをやめた。 「ね?」  肉球が離れ、猫は路恵の前で、得意気な顔をして見せる。  俯く路恵は、「ど」と低く呟いて、首を傾げる猫を睨み上げた。 「どうして出来るならさっさと治さないのよー! いらない有給使っちゃったじゃない!」 「ごめんなさいぃぃ」  頭を抱えて耳を倒す猫に、路恵もさすがに罪の意識を感じる。仮にもその猫は、身体の不調を治してくれたのだ。
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