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ルーレ
「る、幻世?」
「はい、付き添って頂けませんか?」
その言葉に俺はグワングワンと頭が揺れた気がした。
アルサイール帝国との騒動はひとまず解決した。暗殺騒動でゴタゴタになった滞在期間はその分延長し、それに合わせた対応に追われ、結局ベルに誘われたバザーには行けなかったのだ。ちなみに今日はその埋め合わせ。
もうあの後は最悪だった。
ニコライ先生には門限破って説教を食らうし、エリザベス姫からお呼びだし食らうし…アルサイールの連中どもが「内の国に来てくれ」てっ、ウザイし…唯一の幸いは次期国王選抜試合が8月に変更されたことだろう
何でも王様の病状が良くなったのと、アルサイールの条約の後処理で当分忙しく、一番公務が少ない8月が良いだろうと言うことになった。
実のところ、俺は迷っていた。
目の前で無邪気に孤児院の子供達の事を語るベルに、「貴女の守護天師候補になりたいんです」なんて言えず、もう6月を過ぎようとしていた。
あの夜の二人組リューグとギャレットの意味深な態度からして、ベルを表に引きずり出したいと言うのが伝わってきた。
これは罠だ…そう思ったが、俺はベルの魔導師になりたかった。王位継承権をもつベルは試合に魔導師を連れていかねば、即拘束されて地方に幽閉されるのだ。
この国の王の子は等しく継承権を持ち、そして等しく継承権を失う可能性を持つ
王族の徹底的な管理。早期継承権の決定。それこそがこの国の君主制を揺らがないものにしていた。
…ベルは継承権を失う事でこれ以上の不遇な扱いを受けることになるだろう。
俺は彼女の幽閉を回避するために魔導師に立候補するか、それとも罠を回避するために敢えて立候補せずにいるかで迷っていた。
そんな俺は現在、違う案件に頭を悩ませていた。
「…暁の盟約か…」
「はい!今度の23日に儀式を受ける許可を頂きました。でも私、幻世に行くにはその…なんと言うか…迷子になっちゃいそうで…」
モジモジと恥じらうベルに、癒されながら、俺は内心…困惑していた
確かに、ベルは目が見えないから、誰か付き添いをした方が良いだろう。
しかし、俺が付き添うのはあんまりよろしくない。しょっぱなが雪山で遭難しかけたあたり縁起が悪い気がする。
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