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「翔子」  彼女が顔だけを誠司に向ける。 「メール変えたんだけど、お前の登録しなおしといていいか?」  翔子は頷いてスープを皿に盛り始めた。  誠司は翔子の携帯にメールを送ると、振動している彼女の携帯を手にとった。変更したメールアドレスを登録してキッチンに立つ翔子を掠め見る。まだ彼女は離れそうにない。  誠司は着信履歴を表示させた。どれも仕事関係ばかりだ。滅多に着信がないらしく、目的の日付をすぐに見つけた。十二日の着信は『叔母さん』とあった。十一日は公衆電話から一度かかったきり。それ以前はまた仕事関係ばかりだ。  ドアを閉める音がして、誠司は表示画面を音設定に変えた。 「なにしてるの?」 「翔子は着メロ使わないのか? いろいろ入ってんのに、音消してあるんだな」 「ずっとマナーモードにしてあるし」 「それもそうか」と頷いて、誠司は携帯をベッドに置いてテーブルについた。  ベッドを背にして誠司が座り、テレビ側には輝、入口側には翔子が座った。二人に挟まれるような形で誠司は心地悪さに何度か身動ぎをした。 「どうかした?」 「いや、なんでもない。今日はすごいな」  翔子が嬉しそうに笑う。  輝に子供用の先の丸いフォーク、誠司には専用の箸を差し出してくる。輝はすぐにそれを受け取り、誠司はそれを見届けてから箸を受け取った。  翔子が脇に置いてあった瓶を顔の高さまで上げた。 「シャンメリーだけど、誠司さんも飲む?」 「俺は甘いのは……」 「じゃあビールにする?」  立ちかけた翔子を手で制して、誠司が立ち上がってキッチンに向かった。勝手に冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出す。部屋の方を見れば、翔子がグラスにシャンメリーを注いでいるところだった。炭酸の泡がグラスに広がり、輝がそれを見て笑っている。 (虐待を受けてたとは思えないが……)  一見しただけではどこも変わった様子はない。  しかし輝の笑顔に対する違和感は拭えない。誠司にはどうしても作り物めいて見える。
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