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「……中浜さんなら知ってますかね。翔子さんが大切にしてる写真集のこと」
「写真集?」
「ええ、空と風景の写真集ですね。あれね、輝君が好きなんですよ。二人でよく見てますよ」
誠司は俯き、長く伸び始めた濃い影を眺めた。二人が見ているというのは、クリスマスイブに渡した写真集だろう。
「翔子と輝がいなくなって、時々思うことがある」
誠司は影から、空へと視線を移す。青空と雲が見えるだけ。
「俺があの時抱きしめてやってれば、ただそれだけで良かったんじゃないかってね」
「……どうでしょうかねえ」
「まあ俺も器用な方じゃないからな。同じことになってたかもしれない」
「ねえ中浜さん。中浜さんがお望みなら、ボクはいつでも二人の情報をお渡ししますよ」
誠司は渡瀬を見ないまま喉を鳴らして笑った。
「アンタもマメだな」
「取材を兼ねてです。些か職権乱用ではありますけどね」
「自覚があったとは驚きだ」
「命の恩人に向かって失礼ですねえ。一杯どうだとか、誘ってくれる気もないんですか?」
「扇風機しかないようなところで良ければ」
「冬は寒く夏は暑くですか。四季折々を感じられる部屋ですねえ」
「嫌なら来るな」
「つまみを持って伺いますよ」
渡瀬は口角を上げてにっと笑って見せた。
誠司は一旦渡瀬と別れ事務所へと向かった。背広のポケットの中には二人の写真が入ったまま。
了
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