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(うぅ……どうしよう)
誰が気付いてくれるわけでも無く。華奢な体つきをした、高校生はその身を震わせていた。
「はぅ……んんッ!」
満員電車が小さく鳴く動作に連動させるように、ややショートな黒髪を揺らしていた。極力、周りに気付かれないように声は抑えているのだが……それが臨界点に近づく度に、異性をそそるような喘ぎ声を上げる。
紅潮したその頬からは、明らかな拒絶の色が見て取れる。
本人も原因は既に理解していた。自分の尻を貪るように触れている、おぞましい「手」の感触のせい━━。
俗に言う━━痴漢である。
整った顔立ち苦悶とも言えるような表情で彩られ、その瞳からはうっすらと涙すらも垣間見える。
そんなものを目にしてしまったせいか、痴漢は更に気持ちを高ぶらせた。……それを本人は知る由もないが、痴漢行為は徐々にエスカレートしていく。
本当は今にでも痴漢を取り押さえたかったが……当の被害者は敢えて動かなかった。
……別に恐怖心があった訳ではないし。恥ずかしかった訳でもない。
どちらも傷付いてしまうのを知っているから、動かなかっただけなのだ。
……だからといって、自分が降りる駅まで指をくわえているのかと言うと━━それはまた別問題。
どうしようと悩んでいた所で、半泣きになっていた者へと、救いの手が差し伸べられた。
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