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小うるさい音を立てて、近くの扉が開き、一人の少年が入ってくる。
ワックスで剣山のように固めた髪。そんな黒髪がトレードマークの、自分の《大事な人》なのだ。
欠伸をしながら足を踏み入れた彼は、自分を視るなり、呆れ果てた顔を作った。
やがて、彼にも意思が伝わったのだろう。小さく嘆息し、後ろに居るであろう人物に。無関係の人には聴こえないように、ボソッと警告をする。
「オイ。止めとけって。だってソイツは━━」
それを聞くなり、手の動きは止まる。恐る恐る、後ろを確認してみると、酷くうなだれている三十代前後の男性がいた。あまりの落ち込みように、被害者が観ているのにすら気付かない。
(何だろう。泣きたくなってきたよ……)
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「ありがと……カイト」
「今月に入って、もう三回目……あと半分どうするつもりだよ」
頭に手をやり、《神田海斗》は、半ば諦めているように見える。
「そもそも!何でとっつかまえねぇんだよ!めんどくせぇなぁ……全く」
ぶっきらぼうに注意を促しながら、カイトは改札口へと歩き始めた。出遅れた黒茶が、テコテコと追い掛ける。身長が低めで童顔の高校生は、オドオドしながらも、自分の意見を主張した。
「そ、そういう訳にもいかないよ……だって、傷付くでしょ!?」
「はいはい……大したお人好しだこと」
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