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「というか……前みたいに自転車通学にすればいいだろ?」
「人の話聞いてた?昨日も言ったけど……自転車はちょっと前に壊れたの!」
「ついでに━━《壊れた》じゃなくて《壊した》な」
「うぐ……」
そう言いながらバツが悪そうに、海斗の後ろで《曽根川ひかる》は下を向く。
改札機を手前にして、ひかるはふと立ち止まる。
沢山の利用客がいるために、最初はひかるが停止したのに気付かなかった海斗であるが、定期券を取り出そうとした拍子に、何となく違和感を感じて振り向いた。
やや離れた視線の先には……モジモジと内股になり、恥ずかしそうにその場に停止していたひかる。
「……どうしたよ?」
「ト……トイレ!」
ひかるの張り上げた高い声はよく響き。辺りにいた人達も思わず振り返った。
行く行く人々━━主に男性━━は、そんな彼等に羨望と妬みと嫉妬……それらがごちゃ混ぜになった視線を投げかけている。
本来ならば、嬉しかったり、恥ずかしかったり。少なくとも、嫌な気分では無いだろう。
しかしながら、神田海斗は非常にげんなりしていた。最早、その眼は死んだ魚。
相手が《曽根川ひかる》でなければ、彼もうれしはずかし初恋気分だったろうに…………。
次の光景を目の当たりにし、今度は男女関係なしに、目を丸くしていた。
なぜか。
答えは単純明快。何の迷いもせずに、男子トイレへとひかるが入っていったからである。
曽根川 ひかる。
年齢 十六歳。
性別 男……。
「憂鬱だ」
海斗は率直に、気持ちを呟いた。
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