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私も頭を下げ、おばあさんの手をゆっくり離しました。
2人でおじいさん達の家を後にして旅館に向かって歩き出しました。
空は昼から着替えて夜空に変わっていました。
昼とは違い、雲が厚く広がっています。星が見えないのは残念ですが、色々な表情の空を見られて逆にホッとしました。
「楽しかったですね。」
「ええ。田舎の人って本当に優しいです。見知らぬ人を親切に家にまで招待してくれて、ご飯までご馳走してくれるなんて、本当に嬉しかった。いい思い出になります。」
私は暗くなった畑を見渡しながら言いました。
「また2人で来てって言ってましたね。」
「社交辞令ってやつですよ。」
苦笑いを浮かべました。
「僕は本気で聞きましたよ。」
「勝手にして下さい。」
「ダメですよ。また一緒に行かないと。」
ジュンスが一歩先に出て私の前を遮りました。
驚いた私は足を止めました。
「いいですか?ここで終わりですよ。」
私は目の前のジュンスをよけてまた歩き出しました。
「まだ僕の事知らないでしょう?」
ジュンスが慌てて私の横に並びました。
「ええ、もちろん。」
「証明します!」
「はい?」
理解できない言葉に首を傾げて横に並んだジュンスの顔を見上げました。
「お互い自分の生活に戻ったら会いませんか?」
「時間ないです。」
「僕も忙しいからあまり時間ないですよ。」
「何なんですか?会おうって言っといて時間ないとか言って、どっちなんですか?」
本当に不思議な人です。
「僕がどういう人か証明したいんです。」
「どうしてそんなにこだわるんですか?」
「あ~、何となく・・・。」
髪の毛をかけあげています。
その時、冷たい物が空から落ちてきました。
「あれ?雨?」
両手の掌を広げて空を見上げました。
ポツリポツリ雨粒が降ってきます。
あっという間に勢いをつけて降ってきました。
「ヤバイ!」
2人で走り出しました。
ジュンスは身軽に走りますが、私は日ごろの運動不足があだとなって、なかなか早く走れません。
「濡れますよ!」
ジュンスは後ろに振り向き、私のバッグを自分の肩にかけて私の手を取って引っ張りました。
ギュッと握られたジュンスの手から暖かさが伝わりました。
勢いよく降り続く冷たい雨より、手から伝わるジュンスの暖かさの方が大きいです。
握手の時とは違う手の温もりが身にしみるほど暖かいです。
「あそこで待ちましょう。」
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