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スモークたっぷりの空気とは違って、緑の匂いがする空気が鼻から伝わりました。
自然に帰った気持ちになります。
さらに窓を開けて窓の外に顔を出しました。
風で髪の毛がなびきます。
「これだ~。」
目を閉じながら独り言を言いました。
何だか開放感に満ちます。
「お客さん、危ないですよ。」
私の変な行動に呆れた運転手さんが注意をしました。
「すみません。」
注意をされても気分が悪くなる事がなく、笑いながら姿勢を整えて窓を閉めました。
開放感に満ちた高いテンションを落ち着かせて外を眺めました。
移動の電車で熟睡してしまい、しかも着いた事に気付かず駅員さんに起こされた事を思い出しました。
私としてはかなりの恥です。
思い出すだけで顔中に熱が集まります。
予定通りタクシーは10分ほどで予約してあった旅館に着きました。
ネットの写真の通り少し小さめな旅館でした。
私はお金を払ってタクシーから降りて旅館の中へ入りました。
「いらっしゃいませ。」
「予約している○○です。」
「お一人様でご予約の○○様ですね。お待ちしておりました。」
頭を下げながらフロント係員が言いました。
「あ、どうも。」
慣れない待遇に私はつられてお辞儀をしました。
そして渡された紙にサインをして泊まる部屋の鍵を受け取りました。
「ご案内致します。」
フロントの横から仲居さんが出てきて部屋まで案内してくれました。
案内された部屋は2人部屋らしく、ちょっと羽目を外すつもりの私にとっては贅沢な大きさでした。
仲居さんは部屋の説明と夕食の時間を案内した後、そのまま部屋から出て行きました。
私は仲居さんがいなくなった事を確認してからバルコニーに向かいました。
大きなガラスの窓を開けて目を閉じてゆっくり空気を大きく吸いました。
そして目を開けて目の前の景色を見渡しました。
緑に囲まれた風景が私の気持ちを落ち着かせました。
「は~、解放された。」
ゆっくり深呼吸をしました。
また目を閉じると昨日まで行き詰った生活が脳裏を巡ります。
仕事に常に追われ、逃げ場がなくなって、毎日が息苦しいと思いながら生きていた私の生活。
朝から晩まで寝ても覚めても仕事ばかりで、私から仕事をとる何も残らない惨めな生活。
生きるための仕事とはいえ、仕事の忙しさに必死で自分を失うところでした。
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