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「あの、電話を貸してくれませんか?」
「電話ですか?」
「はい。携帯をなくしてしまったみたいで・・・。一度鳴らしてみたいんです。」
「あ、どうぞ。」
フロント係員に電話の子機を渡されました。
私は子機を受け取って、自分の携帯の番号を押し、子機を耳に当てました。
当たり前のように呼び出し音が鳴ります。
電源が入っている事に少しホッとしました。誰かが私の携帯を拾ってくれて電話に出てくれれば一番安心しますが、果たして今私の携帯は人に拾われているのでしょうか?
電話の呼び出し音が5回ほど鳴った時でした。
「もしも~し!」
聞きなれない若い男の声でした。
「誰ですか?」
「僕ですか?あなたは誰ですか?」
少しかん高いハスキーな声です。
焦って自分の携帯にかけている私とはうらはらにのん気な話し方をする向こう側の男にイラつきました。
「私は今、あなたが出ている電話の持ち主です。」
「あ~、そうですか。僕、この携帯拾ったんです。」
「拾ってくれたんですか?」
「はい。どうしようかと思ってたとこでした。」
マイペースでかん高い声がやたら気になります。人の気持ちを考えて欲しい・・・。
「その携帯、どこで拾いました?」
「電車です。」
「電車?」
「はい。僕が乗った電車の座席の間に落ちてましたよ。」
「よかった。拾ってくれてありがとうございます。それ、私の大事な携帯なので、駅員さんに渡しといてくれません?取りに行きますから。」
「あ、はい。どこの駅員さんですか?」
「そんなの、どこの駅もいいです!」
マイペースな話し方がさらにイラつかせます。
「僕は、地元の人じゃないんで。」
「だったら、なおさら駅員さんに渡してください。」
「そうですか。今、△△駅にいるんですけど、ここの駅員さんに渡していいんですね?」
「え?!」
男の人がいる駅はさっき私が居眠りをして起こされた旅館の最寄り駅・・・。
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