479人が本棚に入れています
本棚に追加
「ありがとうございます。」
深く頭を下げました。
「いえいえ。僕は拾っただけなんで。」
「じゃあ、これで。本当にありがとうございました。」
私はまた頭を下げてその場から離れようとしました。
「あの・・・。」
その男の人は首を傾げていました。
「何か?」
「帰っちゃうんですか?」
「ええ。何か?」
「あれ?僕の事・・・。知らないですか?」
「は?知りませんけど。」
「どうしてですか?」
相変わらずかん高いハスキーな声です。
「どうしてって。私は今初めて会ったんですよ。知るわけないじゃないですか。」
「嘘でしょう?田舎の人は・・・。」
一人で何かをつぶやいていました。
「あの・・・。私、ここの人じゃありません。田舎者でもないですけど。」
ちょっとムカッときました。
「じゃあ、どうして僕を知らないですか?」
「知らなくて当然です。今日初めて会ったんですよ。一体、何者だと言いたいんですか?」
私は両腕を組んで自分より背の高い男の人を見上げました。
「僕、有名人ですよ。」
「例え、あなたが有名人だとしても、私には関係ありません。」
「本当に知らないんですね。」
自分の事に気付かない事に落ち込んだらしく下向きになっていました。
「知らなくて残念ですが、携帯を拾ってくれた事は感謝しますから。」
「あ・・・。」
「じゃあ、これで。」
私は男の人から背を向けて歩き出しました。
「ちょっと待って!」
声に反応して後ろに振り向きました。
「お礼はないですか?」
ずうずうしく思えました。
「お礼?」
「はい。大事な携帯でしょう?」
「はい。」
「なら、何かお礼とか。」
「・・・・・・。」
何も返せませんでした。
携帯を拾ってもらって、しまいには待たせちゃったのに、言葉でお礼だけ言うのは人として自分でもひどいと思いました。
「僕ね、ここ初めてなんです。案内してくれませんか?」
会って数分しか経ってないですが、とてもマイペースな人だと悟った気がする言葉でした。
最初のコメントを投稿しよう!