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「あの、お礼はしたいけど、私はここの人ではないとさっき言ったはずです。」
「旅行ですか?」
「そうですが。」
「一人ですか?」
「はい。」
「僕もです。どこに泊まってますか?」
「どうして言わなきゃいけないんですか?」
「ホテルとかとってないで適当に来たのがここで、もしお礼してくれるなら、泊まってる所教えてくれませんか?」
垂れ目に力を入れていました。
「私と同じ旅館をですか?」
「はい。」
「空いてるかどうか分かりませんけど。」
「いいんです。」
「はあ。」
空いている自信でもあるのか大きく頷きながら私を見ていました。私は理解出来ず、開いた口がふさがらない状態でした。
お礼という事で仕方なく私はしぶしぶハスキーな声の彼と一緒にタクシーに乗って旅館に向かいました。
旅館に着くなり、私はフロントの係員にお礼を言って部屋に戻ろうとしました。
「ちょっと待って下さい。」
一緒に来た男の人が後ろからついてきて私の足をとめました。
「今度はなんですか?」
振り向いて男の人と向き合いました。
「空き部屋の確認をしてきますから。」
「ここまでの案内の話じゃなかったですか?」
「いいから、ちょっと待って。」
男の人はフロントに行って、何かを話した後、片手に鍵を私に見せながら戻ってきました。
「空いてましたよ。」
「それはよかったですね。それではごゆっくり。」
「ちょっと待って下さい。」
歩き出そうとする私をまた止めました。
「自己紹介がまだですよ。」
「はあ。」
「自己紹介しませんか?」
「・・・・・・。」
その人の顔を見上げながら首を傾げました。
「僕は、キム・ジュンスです。」
笑顔で右手を差し出されました。
つられた私はゆっくり右手を差し出し、
「私は・・・、○○です。」
自然と自分の名前を名乗りました。
「お互い一人旅だし、よろしくです。」
握った私の手を少し揺らしながら言っていました。
私は揺らされている手と顔を交互に見ました。
そして、ここから一人でゆっくり時間を過ごすはずだった私の2泊3日のリフレッシュ旅は予定外な方向へと動き始めました。
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