電車(前編)

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ガタン! ガタン……ガタン…… 「……ふう。キツいカーブだったけど、危機は去ったようだな」 俺は安堵のため息を吐き、かいた冷や汗を袖で拭った。 しかし、一時も油断は出来ないのが今の現状である。 キレのある急カーブに直面してしまったら、恐らく10人は助からないだろう。 ……この時、俺は助かりたいという一心から、悪魔のささやきが俺の脳裏によぎった。 『イスを強奪する』 ダメだ! それだけは人徳に反している! 多分強盗殺人にも匹敵するほどの重罪を犯すなんて……俺には……俺には…… しかし腕も相当な疲労が溜まってきている…… ど…… どうする……!! 「藤崎……どうした?もしかして腹でも下したのか?そうだったらマジ悲惨だなぁ」 !? ま……松田!! 何をやっている!! お前は座っていたじゃないか!! なぜ……吊革に掴まっているんだ!? ……は! 松田が座っていた場所に、お年寄りの方が眠っている!? ま……まさか……!! 松田……お前……!! 「お年寄りには席を譲る……常識だぜ。これで同じ土俵だな、藤崎」 松田……お前、すげぇカッコいいよ……。 俺なんかイスを奪うなんてゲスな考えを起こしていたというのに……。 俺は綺麗な笑みを浮かべる松田に隠れ、頬を伝う雫を袖で拭った。 松田……お前って…… 不良じゃなかったっけ?
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