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「チッ……」
俺はポケットから櫛を取り出しリーゼントを整えた。
これだから夜中に出歩きたくねぇ。
昼間に夜食の分も買っておけば良かった。
「うぅ……」
地面に倒れている男たちの一人が呻き声をあげながらこちらを睨めつけている。
「テメェ……覚えてろよ……」
「訳わかんねぇ因縁つけてきたのはそっちだろぅが。夜中のここらは俺らの縄張りだとか言ってよ」
ポケットから鏡を取り出し、リーゼントをチェックしながら俺は言った。
「俺は腹が減ってんだ。もう帰るぜ」
さっさとこんな路地裏からは出たい。
隅っこに置いていたコンビニのビニール袋を持って男たちに背を向けた。
「覚えてろ!この借りは返すからな!」
覚えてろと言われても、最初に言われた高校名すら覚えてない。
だからそんな叫びも十歩ほど進んだら忘れた。
空には大きな満月。
こんな路地裏ですら明るく照らしていた。
が……。
そんな真夜中に全く似つかわしくないものが俺の前を駆け抜けた。
長い黒髪に、それに合わせたかのような黒いマントを身につけた……。
「ガキ?しかも女」
ペタペタと裸足でコンクリートの上を懸命に走っていた。
懸命に走っていると言っても、俺の歩く速度と変わらない。
そんなガキが一人で路地裏を駆けている。
明らかにおかしい。
俺は追いかけ、ガキの首根っこを掴んだ。
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