プロローグ

3/4
前へ
/301ページ
次へ
 星空とは、美しい。  夏に、冬に輝く大三角形。数々の星座を形作る小さな光。数多の星を流し続ける、天の川。 「ねぇ。アレの名前って、何?」  美しいモノに人は惹かれる。  それは、当然の原理だろう。 「おまっ……フフッ」 「な、何よ? 気持ち悪い含み笑いなんて、しないでよね」  そんな星空に惹かれた少女の頬には、少しの朱色が混じった。  と言っても……現在の夕暮れに染まった空の中からでは、星を見つけるのは難しい事なのだが。 「あれ、金星だぞ?」 「……えっ?」 「夕方に、あんだけはっきりと見えるのは……宵の明星、だっけ? まぁそう言われる金星だけだ」 「そ、そんな事ないわよ! ちゃんと見えるんだからっ」  素直じゃないのは、もはやご愛嬌(あいきょうだろう)。  そもそもな話、まだ太陽が沈みきっていない時間帯だというのに、その中からあれだけ小さな輝きを見付けようというのだから、逆に驚きだろう。  ……月なら見えてるけど。 「ちゃんと見えるって……なんだよ、金星がか?」 「シンのバカっ……!」  目の前のかわいく照れた美少女の、手提げカバンで殴り付ける攻撃。  揺らした短めの髪は、少しばかりだが、その美しさと恥ずかしさ引き立てていた。
/301ページ

最初のコメントを投稿しよう!

284人が本棚に入れています
本棚に追加