その村平和につき

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「ミフネーー!!」 ウィンドに響き渡る幼い少女の声。 「アリサ?俺なら此処ッスよ」 とその声に応えるように、アリサと呼ばれた少女の前、木で出来た家から平坦な声が発せられた。 アリサはその声の元が判ると、握っている包みを確認し、目の前の家に走って向かった。 「ミフネ!!」 ドアの無い入り口をくぐり抜けと、大きな背中があった。アリサは勢いよくそれに飛びついた。 「うわっ!!!熱っ!!」 「こら!!アリサ!!」 「アリサ。そっちじゃないッスよ」 家の奥の方から顔を出す青年。 空色の髪、闇みたいな藍色の目。どれをとっても、ウィンドの者には無い。綺麗な色だった。 「アレ?じゃあこの人は?」 アリサはまじまじと、今抱き着いている人を見た。 「アリサのおじさんッスよ」 長い年月をかけて蓄えられた立派なヒゲ。薄い暗がりの中、色や長さを認識する前に抱き着いた為か、なんでこんな間違いをするのかという自己嫌悪に堕ちるほど、おじさんとミフネは違った。 「ミフネ~」 気を取り直して、ミフネに抱き着こうと走って近付いたアリサだったが、ミフネの片手によって阻まれてしまった。 「アリサ、その前にアサマに謝るッス。アリサが飛びついたせいで、持っていた熱いスープが手に零れてしまったんッスから」 「むー。おじさんごめんね」 「今度から気をつけろ」 そう告げるとそっぽを向いてしまうおじさんこと、アサマ。 アサマはウィンドが誇る猟犬の調教師なのだが、このおやじ一つウィンドの皆が頭を抱え込むほどの短所があった。 ――あっ、今絶対"アリサ可愛い~"とか思ってるッスね。 そう果てしなくアリサ馬鹿なのだ。アリサが産まれてこの十年。村の人に気付かれていないと、本人は思っているみたいだが、バレバレだ。 ――よそ者の俺すら直ぐに分かったッスしね。 アリサ自身にはばれていないのが、不幸中の幸いというべきか。
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