72人が本棚に入れています
本棚に追加
「ミフネーー!!」
ウィンドに響き渡る幼い少女の声。
「アリサ?俺なら此処ッスよ」
とその声に応えるように、アリサと呼ばれた少女の前、木で出来た家から平坦な声が発せられた。
アリサはその声の元が判ると、握っている包みを確認し、目の前の家に走って向かった。
「ミフネ!!」
ドアの無い入り口をくぐり抜けと、大きな背中があった。アリサは勢いよくそれに飛びついた。
「うわっ!!!熱っ!!」
「こら!!アリサ!!」
「アリサ。そっちじゃないッスよ」
家の奥の方から顔を出す青年。
空色の髪、闇みたいな藍色の目。どれをとっても、ウィンドの者には無い。綺麗な色だった。
「アレ?じゃあこの人は?」
アリサはまじまじと、今抱き着いている人を見た。
「アリサのおじさんッスよ」
長い年月をかけて蓄えられた立派なヒゲ。薄い暗がりの中、色や長さを認識する前に抱き着いた為か、なんでこんな間違いをするのかという自己嫌悪に堕ちるほど、おじさんとミフネは違った。
「ミフネ~」
気を取り直して、ミフネに抱き着こうと走って近付いたアリサだったが、ミフネの片手によって阻まれてしまった。
「アリサ、その前にアサマに謝るッス。アリサが飛びついたせいで、持っていた熱いスープが手に零れてしまったんッスから」
「むー。おじさんごめんね」
「今度から気をつけろ」
そう告げるとそっぽを向いてしまうおじさんこと、アサマ。
アサマはウィンドが誇る猟犬の調教師なのだが、このおやじ一つウィンドの皆が頭を抱え込むほどの短所があった。
――あっ、今絶対"アリサ可愛い~"とか思ってるッスね。
そう果てしなくアリサ馬鹿なのだ。アリサが産まれてこの十年。村の人に気付かれていないと、本人は思っているみたいだが、バレバレだ。
――よそ者の俺すら直ぐに分かったッスしね。
アリサ自身にはばれていないのが、不幸中の幸いというべきか。
最初のコメントを投稿しよう!