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カシャッという乾いた音がすると、遮られていた朝日がケンジの顔を直撃した。朝の見回りに来た看護師がカーテンを開けたようで、ケンジはその眩しさに目を覚ます。
「朝ですよ。おはようごさいます」
ケンジは、せかせかと身の回りを整えてくれる看護師を見た。
「おはようございます」
我に返って挨拶を返した頃には、看護師は窓を開け終えて病室を出ていくところだった。薄い笑みは浮かべていたものの、それは明らかに作り物で、朝から忙しいったらありゃしないという余裕のなさがそこに現れていた。
「忙しいんだな」ケンジは静かになった病室で一人呟く。
医療人員不足というのはニュースなどで知ってはいるものの、実際には目の当たりにしないと気にも留めないものだった。
そんな事を片隅で思いながら、ぐっと訛った体を伸ばしてみる。腕も足も目一杯伸ばしたところで、ケンジははたと気が付いた。体が痛くない。傷のある腕に目をやって、頭の包帯にも触れてみる。点滴のお陰だろうか。既に今はその点滴も外されていて、快調そのものだった。
視界の隅で何かがちょこまかと動いていた。ふとケンジはそれに目をやる。
雀だった。二匹の小さな雀が楽しそうにさえずりながら中庭を跳ねていた。つがいなのかなと思いながら、ケンジは小さなワルツを眺める。
それから気が付いた。この中庭はいつもの朝の情景じゃない。部屋の窓からは緑は望めないし、そもそもケンジの部屋は二階だった。疑問にうなされながら少しだけ目線を上げると、途端にケンジの頭から全てが吹き飛んだ。
大木の足元にあるベンチで、一人の少女が本を呼んでいた。
思わず目を奪われながら、ケンジは記憶を呼び覚ます。
――俺は昨日も彼女を見た。昨日の景色を彷徨いながら、ケンジは確かに自覚した。斜光こそ違うものの、昨日と何一つ変わらない風景がそこにあった。
点滴も外され自由になった体を起こして、惹かれるようにケンジはベッドを出た。
そよそよと朝の風が髪を撫でる。また一ページを読み終えると、少女はページをめくった。
水分を含んだ芝が、一定のリズムで音を立てている。だんだんと近づいてくるその足音に、少女は顔を上げた。
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