『10月25日 日曜日』

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 彼女と目が合うと、ケンジはその場で足を止めた。微妙な距離感の二人はお互いを見つめあう。警戒しているわけではないが、自然と微笑み合うわけでもない独特な空間を作り出していた。  少女は、ベンチに浅く腰かけて不思議そうにケンジを見つめている。寝巻とも私服とも取れないような出立ちの彼女は、セミロングの髪をさらさらと揺らしていた。読みかけの本を開いたままで、つぶらな目を猫のようにくりくりさせて毅然と見つめる。  ケンジは、少女の反応を窺っている。この猫を撫でてみたいけれど、迂闊に近づいたら途端に逃げ出されそうだから、じっと相手の出方を待った。 「こんにちは」  ふとしたタイミングに、少女は口を開いた。 「よぉ」とケンジもぶっきらぼうに答える。 「……何してるの?」 「お前を、見てる」  なんて間抜けな答えだ。ケンジは嘆いた。俺は阿呆か。  しかしどうやらそれは不正解ではなかったらしい。 「そうだね」ふふっと少女は笑んだ。「私もキミのこと見てたもんね」  ケンジはほっと力を抜いた。彼女は笑んでくれている。もう逃げ出されることはないだろう。 「隣、いいか?」  そう言ってケンジは少女の隣を指さす。「もちろん」  こくんと頷いて、少女が詰めてくれる。ケンジはそこへお邪魔した。隣に座ると、ほのかにいい香りがした。 「わたしに話しかけてくるなんて、変わった人」 「そうか?」  少女は興味津々でケンジを見つめる。ストレートにぶつけられてくる彼女の視線に耐え兼ねて、ケンジは苦し紛れに話題を繰り出した。 「昨日もここで本読んでたよな?」 「なんで知ってるの~?」  途端に少女が目を丸くする。 「見えたんだ。ほら、俺の病室ってあそこだから」 「ふむふむ」年に似合わないような相槌を打って、少女はケンジが指さした方を見る。「一階なんだね」 「なんでこの病院に来たの?」  不意に少女が訊いてくる。
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