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彼女と目が合うと、ケンジはその場で足を止めた。微妙な距離感の二人はお互いを見つめあう。警戒しているわけではないが、自然と微笑み合うわけでもない独特な空間を作り出していた。
少女は、ベンチに浅く腰かけて不思議そうにケンジを見つめている。寝巻とも私服とも取れないような出立ちの彼女は、セミロングの髪をさらさらと揺らしていた。読みかけの本を開いたままで、つぶらな目を猫のようにくりくりさせて毅然と見つめる。
ケンジは、少女の反応を窺っている。この猫を撫でてみたいけれど、迂闊に近づいたら途端に逃げ出されそうだから、じっと相手の出方を待った。
「こんにちは」
ふとしたタイミングに、少女は口を開いた。
「よぉ」とケンジもぶっきらぼうに答える。
「……何してるの?」
「お前を、見てる」
なんて間抜けな答えだ。ケンジは嘆いた。俺は阿呆か。
しかしどうやらそれは不正解ではなかったらしい。
「そうだね」ふふっと少女は笑んだ。「私もキミのこと見てたもんね」
ケンジはほっと力を抜いた。彼女は笑んでくれている。もう逃げ出されることはないだろう。
「隣、いいか?」
そう言ってケンジは少女の隣を指さす。「もちろん」
こくんと頷いて、少女が詰めてくれる。ケンジはそこへお邪魔した。隣に座ると、ほのかにいい香りがした。
「わたしに話しかけてくるなんて、変わった人」
「そうか?」
少女は興味津々でケンジを見つめる。ストレートにぶつけられてくる彼女の視線に耐え兼ねて、ケンジは苦し紛れに話題を繰り出した。
「昨日もここで本読んでたよな?」
「なんで知ってるの~?」
途端に少女が目を丸くする。
「見えたんだ。ほら、俺の病室ってあそこだから」
「ふむふむ」年に似合わないような相槌を打って、少女はケンジが指さした方を見る。「一階なんだね」
「なんでこの病院に来たの?」
不意に少女が訊いてくる。
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