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*
暗闇が広がる夜の街。
点々とした街頭の光のみの闇の中、とある木の枝の間から血のような赤い瞳がとある一点見つめている。
『―――見つけたぞ』
にたり、と嘲った口から、先が二股に分かれた細い舌が覗く。
『―――狛犬よ―――!』
長い尾を揺らすそれの先には、ひとりの少女とふたりの少年の姿があった。
*
鎌鼬と一戦を交えたのち、夢留由は男子寮の空留由・羅央の部屋にきていた。
本来は夜の部屋移動は禁止なのだが、砂塗れになってしまったためシャワーと着替えを拝借したのだ。
「ありがとね、助かった」
「いーっていーって、気にすんな」
髪を乾かしながら部屋に入ると、空留由がソファーに座っていた。
隣に腰を下ろし、がしがしと水分をとる。
ある程度乾かして手櫛で整える。
「あれ、羅央は?」
ふと、長身の幼なじみがいないことに気付く。
すると。
「こーこ」
ぴと
「ぴぎゃぉ!?」
頬にあてられた冷気に、思わず悲鳴(?)を上げる。
ぶっ、と背後から吹き出す声を聞き振り返る。
「ぴぎゃぉ、ってどんな悲鳴だよ。それ」
手に缶ジュースを持った羅央が、口元をおさえて笑っている。
缶を受け取り、むぅ、と頬を膨らます。
悪い、と謝り夢留由を挟むように彼女の逆隣に腰を下ろした。
「最近、確かに平和なもんだけどさ。…逆に、静かすぎない?」
「くる?」
唐突に話しだした弟を訝しげに見やる。
空留由は真っすぐに大地の瞳をふたりに向けた。
「確かにさ、もともと妖の数も多いとはいえない。けど、ここ一週間くらいってほとんど見なくないか?」
確かに。
よくよく考えてみたら、最近街中にいる幽霊や無害な妖たちの姿すら見ない。
―――まるで、何かから隠れているかのように…
同じ事を考えたのだろう、ふたりと改めて顔を見合わせる。
「あとで父さんにでも聞いてみよっ…か…」
ふと、窓の外を見て、夢留由はそちらに眼を止めた。
つられて同じ方を見た二人の目に移ったのは、暗闇に淡く体を発光させた一羽の鳥。
見覚えのあるそれは
「父さんの、式神?」
窓を開けて鳥を中に招き入れる。
床に足を着けたとたん、ぽん、と音をたてて鳥は一枚の紙片に姿を変えた。
それを拾い上げ、目を通す。
行をこなすごとに夢留由の目に険しさが滲んでいく。
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