第一章*桜の蛇、狛犬の覚醒

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「「どこがっ!!!」」 一糸乱れぬ言動に、心の中で、ほらぴったりだ、と呟く。 口に出せばまたがっつかれそうなので、やらないが。 ふと、時計を見た夢留由はすっくと立ち上がった。 「ゆる?」 「そろそろ戻るよ。今日は麻夏も来てるし」 靴を履き、窓に足を掛けて一度振り返った。 ぴ、と羅央に指を差す。 「ジュースのお金、後で返すから」 じゃぁね、と残して彼らの視界から消えた。 行ってしまった後で、羅央は頭を掻いた。 「……別に、奢りでいーのに…」 相変わらず律儀な奴だな、と零す。 くす、と笑い、空留由は相棒の肩を叩いた。 「でも、そういうとこも、いいんだろ?」 「―――そうだな」 はにかむように笑い、彼女が居るであろう方に、優しい視線を送った。      *** 翌朝。 すかー、と幸せそうに眠る夢留由に、のそっと影がかかる。 「夢留由ー」 もそっとみじろぐだけで起きそうにない彼女の上に、それがゆっくりと影を濃くしていく。 「お・き・ろ」 どすっ 「ぐえっ!?」 いきなり腹にのしかかった重圧に、乙女らしからぬ声を上げる。 涙目で腹の上の人物を睨み付ける。 「げほっ、麻夏!!」 怒りを込めて怒鳴るが麻夏は相変わらずこたえた様子はない。 とりあえず夢留由の上から退き、腰に手を当てて仁王立ちする。 「もうお昼だよ。寝すぎ」 え、と携帯のディスプレイを見ると、確かに12時を過ぎている。 昨夜部屋に戻り寝付いた頃には、結局午前3時をまわっていた。 そう考えると、まぁ、仕方ないかもしれない。 「方法は別として、起こしてくれてありがとう」 「あれ、なんか用事あんの?」 「うん、ちょーっとね」 にっこりと笑った夢留由の背後に、黒いものを見たような気がした麻夏だった。 * ―――学院生専用総合施設・四神 名の通り、四方にそれぞれ青龍、白虎、朱雀、玄武を描いたステンドグラスがはめられた建物だ。 そこの一階にある自習室の一角で、夢留由は斜に構えて座っていた。 彼女の向かいには、縮こまった弟と幼なじみ。 「―――で、何か弁明は?」 夢留由の言葉に、ふたりは、びくりと肩を跳ねさせる。 冷や汗を流すふたりの前には、薄めの本一冊分はあろうかというプリント集。 表紙には、ご丁寧に『補習者用課題プリント』とうってある。
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