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「―――その汚らしい手を放してもらおうか」
低くなりきれない、声変わり直後のような少年の声が、重々しい言葉を響かせる。
とたん、周囲が紅い輝きを放つ。
それは熱を帯び、爆音と共に空洞の闇の中で炸裂した。
絡められた腕が夢留由の細腰から離れ、華奢な体が後方に倒れる。
「っ夢留由!!」
とっさに駆け付けた羅央の逞しい腕が、力の入らない体を受けとめる。
空留由が額に手をやると、小さく唸りわずかに身じろぐ。
「…あ…れ?ボク、一体…」
思わずホッとすると、三人の前に小さな影が立ちふさがる。
「―――男、の子…?」
いまだぼんやりとする頭に送られてきたのは、辺りに負けないくらい燃えるような鮮やかな赤髪の、明らかに自分より年下に見える少年の画像。
華奢な背がふとこちらに振り返る。
その瞳に、夢留由は思わず魅入られた。
少し鋭い幼さの残る瞳は、まるで紅玉を埋め込んだかのような、鮮やかな紅。
「―――君は……」
「お前が、我が宿り主、新たな主人(あるじ)」
「え…?」
困惑する夢留由に、少年は揺るぎない言葉をぶつける。
「童(わらべ)よ、我が名を呼べ。さすれば契約が結ばれん」
一瞬、頭が真っ白になった。
ケイヤク?
彼は今、『契約』と言ったのか?
そして、はっと気が付いた。
彼の頭から、人のそれとは違う、そう、犬のような耳が生えていることに。
「君は…!?」
「呼べ。我が名はシュカ―――朱(あけ)の、夏だ」
どくん、と夢留由の鼓動が、否、魂が高鳴る。
血が熱を持って体を巡り、本能を掻き立てる。
震える唇に力を込め、夢留由はまっすぐに少年を見据えた。
「――――朱夏」
キン、と何か糸が張るような音が響き、光に包まれた少年―――朱夏の首に首輪のようなチョーカーがはまる。
光がおさまると同時に、朱夏の表情が変わる。
微笑を浮かべ、閉じていた瞼を上げた。
「契約はここに成った。主よ、命を」
大地の瞳を目一杯開いていた夢留由は、朱夏の言葉にキッと漆黒の空間を睨み付けた。
「あの空間の消滅、よしんば中のものを引きずりだして!」
「―――御意」
夢留由の言葉に、朱夏は笑みを深める。
彼の腕で炎が渦巻き、火炎弾となって空間へと飛び込んでいく。
漆黒が赤く染まり、火の粉が舞い踊る。
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