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「では、こちらも先に済ませましょうか」
背後からの声に、空留由はばっと振り返った。
緊迫した大地の瞳に移ったのは、『蒼い』イメージを与える少女。
腰をも覆う癖のない長い髪は深い、深い海の蒼。
瞳は上質な蒼玉(サファイア・ブルー)
朱夏とよく似た出で立ちと、獣の耳。
空留由の視線に、少女はたおやかに微笑むだけ。
「やり方は、もう御覧になられましたね」
すっと空留由の手を取り、自分の喉元に宛がう。
「私の名はソウカ―――蒼天の、夏です」
息を呑み、空留由は意を決したように口を開く。
「…っ…、蒼夏―――…」
紡がれた言葉にあわせて少女の体が光に包まれ、朱夏同様、首にチョーカーがはめられる。
光がおさまり、少女――蒼夏は左手を掲げた。
すると、瞬時に水球が現れ、彼女の動きにあわせて弾ける。
弾けた霊水は周囲に四散し、水の結界を織り成す。
「あなた方の御身は、私たちがお守りします。主様」
「君たち、何者なんだ…!?」
蒼夏は、にこりと微笑み、桜の唇を動かした。
「―――人からは、『双犬神(そうけんしん)』と、呼ばれるものです」
彼女の言葉に、空留由は目を見開いた。
あまりに聞き馴染んできた単語が、今驚愕の響きを含む。
混乱する頭をフル回転させていると、爆発音が耳朶を打った。
「っ、夢留由!?」
反射的に半身の姿を探す。
見慣れた短髪に思わず安堵の息をはく。
「―――ようやくお揃いか、双犬よ」
煙の向こうからの声に、夢留由は臨戦態勢を取った。
怖気がたつような猫撫で声に、一歩退く。
はらり、とどこからか季節外れな桜の花びらが舞い落ちる。
瞬間、桜を纏った突風が煙を消し去った。
「これは善きかな、宴はこうでなければおもしろくない」
ばっ、と再び、今度は開けた視界の先に、一人の男が佇んでいた。
地につく流した癖のない長髪は淡い桜を纏った銀。
着物を着くずし、胸元をはだけた姿は男独特の艶やかさを醸し出している。
すっと開かれた瞳は羅央のそれより鋭く、朱夏のとは違う禍々しい血のような赤。
顎のラインからのびる耳は先が尖り、爪も鋭い刄の様だ。
「久しいな…『紅犬(こうけん)』、それに、『蒼犬(そうけん)』よ」
「……我らは、相見たくなどなかったがな」
「まだ、生きていらしたんですね…」
間を置き、蒼夏が険しい瞳で男を睨み付ける。
「――――蛇桜(じゃおう)…!!」
「ジャオウ?」
「桜を宿す、蛇の大妖だ。我らの力を狙っている」
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