第一章*桜の蛇、狛犬の覚醒

6/15
前へ
/19ページ
次へ
―――一方、女子寮 「ふ――――…」 深夜も廻った頃、夢留由は部屋に備え付けのシャワーを浴びていた。 一日の汗や汚れを流してさっぱりし、髪を拭きながら着替えに手を伸ばす。 ―――瞬間、悪寒に似た感覚が脳を貫く。 「~~~汗流したばっかなのにっ!」 もはや日常となった感覚に舌打ちをして、部屋着から動きやすい服へと替える。 袖と丈の短いTシャツにショートパンツ、右手に数珠をつけ、窓に脚を掛けた。 ふと、一度部屋を振り返る。 暗い部屋の隅、二段ベッドの下段とその横の掛け布団が、穏やかに上下している。 「―――おやすみ。麻夏、茜ちゃん」 そして、三階の窓から姿を消した。 寮の裏手に広がる雑木林。 その気配はそこから漂っていた。 林の入り口には、すでに空留由と羅央が来ていた。 「くる!羅央!相手は?」 「今、羅央が【風読み】で探ってる」 羅央の首にかけられた革紐にさげられた翠の勾玉が、淡い色を放ち風を纏っている。 やがて、光がおさまりゆっくりと黒曜の瞳が開かれる。 「こっち来てる―――鎌鼬(カマイタチ)だ!」 瞬間、突風が三人を襲い、周りの木々が喧しく騒めきだす。 ふいに頭を下げると、今さっきまで夢留由の首があった位置に真空の刄が突き刺さる。 「夢留由!」 「平気!!」 第二波を避けつつ精神を集中する。 ぼぅ、と右手の勾玉が光を帯び始めた。 夢留由を囲むように、灼熱の円陣が空気をも焦がしていく。 炎がうねり、夢留由の右腕に蛇のように絡み付く。 「―――炎舞―――…」 紅い輝きが揺らめき、大地の瞳を煌めかす。 突進してくる黒い影に向けて手を掲げる。  "―――臨の舞…!!" 紅蓮の炎が五芒を描き、彼女の盾となって影を弾き返した。 そのまま、もんどり打つ影―――両手が鋭い鎌の巨大な鼬(イタチ)―――鎌鼬の体を、締め付ける。 肉の焼ける臭いと断末魔が林に響き渡る。 夢留由の対角線上で蒼い光が煌めいた。 「―――水時計…!」  "古刻・辰の刻―――!!" 空留由が纏っていた水が、いくつかに分かれ頭を擡げる。 彼の合図で幾匹もの水龍が鎌鼬に襲い掛かる。 ジュッと白煙がたちこもり、黒炭と化した鎌鼬は、地に伏してなおビクビクと体を震わせている。 「―――風車」  "―――イ式伍型…!!" 紅と蒼の狭間に、翠の光が溢れる。 幾つもの風の刄が、黒ずんだ骸を容赦なく切り刻んだ。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加