第一章*桜の蛇、狛犬の覚醒

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ひゅっ、と羅央が手を払うと、くすみ、淀んだ空気が一掃される。 林に静寂と暗やみが戻る頃、三つの輝きもおさまっていった。 「んーっ!今日はあっけなかったねぇ」 「そうそう強い奴が出てたまるかっつの」 「そりゃそーだけどさぁ」 ぐっと伸びをし、片目を瞑って幼なじみを顧みる。 羅央は、やれやれと肩をすくめた。 ―――ふと、水結の言葉が甦る。 『今のままじゃ、只の幼なじみで終わっちゃうよ?』 僕としては、その方が好都合だけど、と言い残し、彼は階上に消えていった。 (―――言えるわけ、ないだろ…) 長年積み重ねてきた絆が、たった一言で壊れてしまいそうで、怖いから…。 彼女の微笑みを、失うことだけはしたくない。 女々しい考えなのはわかっている。 けれど、どんな形であれ、夢留由を失うことが、何よりも怖いのだ。 (俺の気持ちを知ったら、こいつはどう思うんだろうな…) 隣で笑う幼なじみを見やり、そっと息をはいた。 * ―――京都郊外に、双神を祭った神社が建っている。 その裏手にある和屋敷の一室で、彼は息を呑んだ。 長い髪をまとめる紐に付いた鈴が小さな音を立てる。 「―――これは…!」 示された占(せん)の結果に、自然と嫌な汗が頬を滑る。 三つの水鏡のうち、二つがそれぞれ紅と蒼の淡い光を放ち、中央の一つが波紋を生む。 「桜の蛇が、目覚めたか―――」 そして、あの神々も――… 水鏡のように、現世(うつしよ)にも生じ始めた波紋に、彼は窓越しの月を見つめた。
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