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ひゅっ、と羅央が手を払うと、くすみ、淀んだ空気が一掃される。
林に静寂と暗やみが戻る頃、三つの輝きもおさまっていった。
「んーっ!今日はあっけなかったねぇ」
「そうそう強い奴が出てたまるかっつの」
「そりゃそーだけどさぁ」
ぐっと伸びをし、片目を瞑って幼なじみを顧みる。
羅央は、やれやれと肩をすくめた。
―――ふと、水結の言葉が甦る。
『今のままじゃ、只の幼なじみで終わっちゃうよ?』
僕としては、その方が好都合だけど、と言い残し、彼は階上に消えていった。
(―――言えるわけ、ないだろ…)
長年積み重ねてきた絆が、たった一言で壊れてしまいそうで、怖いから…。
彼女の微笑みを、失うことだけはしたくない。
女々しい考えなのはわかっている。
けれど、どんな形であれ、夢留由を失うことが、何よりも怖いのだ。
(俺の気持ちを知ったら、こいつはどう思うんだろうな…)
隣で笑う幼なじみを見やり、そっと息をはいた。
*
―――京都郊外に、双神を祭った神社が建っている。
その裏手にある和屋敷の一室で、彼は息を呑んだ。
長い髪をまとめる紐に付いた鈴が小さな音を立てる。
「―――これは…!」
示された占(せん)の結果に、自然と嫌な汗が頬を滑る。
三つの水鏡のうち、二つがそれぞれ紅と蒼の淡い光を放ち、中央の一つが波紋を生む。
「桜の蛇が、目覚めたか―――」
そして、あの神々も――…
水鏡のように、現世(うつしよ)にも生じ始めた波紋に、彼は窓越しの月を見つめた。
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