第Ⅷ章 右手

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「それと、さ。拓海とずっと、ずっと……ね」 彼女の唐突な惚気発言に、僕の顔は火を噴きそうなくらいに暑くなった。いや実際は吹いているんじゃないだろうかと、左手で頬に手を当て確認したほどだ。 彼女は言い終えた後何か奇声を発してその場に座ってしまったようだ。握った手が下に引っ張られたことで知りえた。 それを感じて僕がしたことは、深呼吸と拳を握ること。それから口を開くことだった。 「僕も、一緒だよ。由芽と同じ事をお願いした」 彼女だけに言わせるわけにはいかないと思ったんだ。それに、これは二つ目のお願い事でもあったのだ。それが彼女と同じだったことを物凄く、どうしようもなく嬉しく思った。 そんな僕の言葉を訊いてか、彼女の左手が僅かに動いた気がした。僕はそれに答えるかのように優しく包み込んだ。 「実は……な。俺も同じような事をお願いした」 「え……?」父の言葉が一瞬理解できなかった。 「実は、僕もなんだよね」テヘヘ、と田上君は語尾に付け足す。 何が何だかよくわからなくなってきた。でもわからないけれど、何かが心から湧き上がってくるような気がしてならなかった。これはなんなのだろうか。
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