第Ⅷ章 右手

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「もうやめろよ、二人とも」田上君が二人に釘をさした。なんとなく、首筋に血管浮き出ているんだろうな、なんて思った。 それはそうと、新年からこんなに馬鹿をやっていていいのだろうか、などという真面目な考えが脳裏を過ぎったが、新年だからこそこういうのも有りなのでは、という考えによって簡単に打ち消された。 「まあそろそろ帰ろうよ。今日なんだか寒いし。それに守と由芽も家に帰らなきゃいけないんだからさ」 「そうだな、ここいらで解散としますかね。丁度別れ道だし」やっとの思いで笑いを鎮めた父が言った。 「うん、そうね。じゃあこの辺りで解散としましょう」 彼女は言い終えると僕の手をスッ、と離した。空いた右手が先ほどまでの温かみを夜風に浚われていく感覚がして、なんだか寂しかった。 「またね」と僕は彼女たちに右手を挙げて言った。僕の言葉に返事をすることもなく、二人の足音は段々と遠ざかっていった。 別れるときはいつだって、寂しいものだ。ずっと、ずっと手を繋いで彼女の傍らに寄り添って居たいけれど、そんなことは出来ない。 二人が去ってからの帰路は何かが欠けてしまったように思い、でもそれが別れというものなんだろうな、なんて少し感慨深くなり頭を掻いた。
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