第Ⅷ章 右手

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新年ののんびりとした雰囲気をまだ仄かに残している路地を僕は歩いていた。通勤時間だというのにすれ違う人は居なくて、鳥の囀りと自分の規則的な足音だけが鮮明に僕の聴覚を占めていた。 僕が今どこへ向かっているかというと、ピアノの先生宅だ。新年の挨拶と練習を兼ねて訪れるつもりなのだ。 今日の課題はなんだろうな、と頭の中で色々な曲を流していると「明けましておめでとう九条君」と声を掛けられて、目的地に辿り着いたことを知った。 「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」と僕は丁寧に新年の挨拶を口にして頭を下げた。 「そんな堅苦しい挨拶は求めてないのよ」と笑い声交じりに言われ、いいえ教えてもらう立場ですから、と告げて先生の後をついていった。
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