フジノヤマイ

16/21
前へ
/22ページ
次へ
 「でも……でも、あたしは好きなの!置いていきたくないの!一緒に居たいの!君の傍に居たい!」  彼女の声は悲鳴に似ていた。  「それの何がいけないんだよぉ……」  彼女はその場に座り込むと、大声で泣いた。  マンガみたいな量の涙が溢れていた。天井を見上げて大きな口を開けて。  その声はこの小さな白い部屋中に響いて、彼女の涙の色みたいに、部屋がきれいな水色に染まった気がした。  僕はどうしたらよいのか判らなくて、そっとベッドから足を下ろす。  「ぅあぁぁぁぁぁっ……ぁあぁぁぁぁぁんっ!」  彼女の声は僕の耳に響いて、僕はその細い肩に触れた。  それだけで、彼女はまるで、母親を見つけた迷子みたいに、僕にしがみつく。  彼女の首筋から、陽の匂いがしていた。  「ひぐぅぅっ」  女の子とは思えない声で彼女は泣く。  僕はその、涙と鼻水だらけの顔を、自分の肩に抱いた。  細い、細い背中に、腕を回す。  「僕・はただ、彼女・に、彼女に・傍に居て欲しかっただけなんだ。彼女がそばにいてくれたらそれで、よかったんだ。  その後、一人きりになったって、よかったんだ」  堪えきれなくなった涙は、コロコロと流れて、彼女の肩に染みた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加