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そこはどこかの一室だった。事務所の様にも見える。窓の外のイルミネーションが地上の星を思わせ、今や三十階建てなんて当たり前だった。
その景色は中の人間には当たり前に無視される。
飾り気のないシンプルな部屋で男が二人パソコンのモニターを見ながら椅子に座っている。これが一般的な会社ならば、残業ともみれなくない。
「木崎さん」
「なんだ」
「まるで残業なんすけど」
一人の男が冗談混じりに愚痴をこぼす。
「宮城、まだ一時間しか経っていない。愚痴を言うには早いぞ」
もう一人の男は宮城と呼ばれた男をたしなめる。どちらも二十代であるが、年は少し離れた程度。たわいもない会話をしながら二人の視線はモニターに向けられたまま微動だにしない。
「来ますかね」
「わからん、だが予告と通報があった以上、見逃す訳にも行かない」
木崎は真面目に答える。彼の机には、プリントされた紙が数枚置かれている。
「警察もやってくれますかね?」
「俺達は現場確認と被害軽減、その後処理だ。あくまでも、一般市民を安全に守る。捕まえるのは向こうがやるだろう。」
「…なんか、もどかしいっすね。現場の兵藤がうらやましい」
宮城は僅かに苛立ちを出してしまう、もちろん木崎も同じだ。 しかし、彼らの仕事は常に事態が起こった後にしか行動できない。それは例えるなら消防士に近い。火が放たれて、通報があって、現場に駆けつける。何時間も被害を広げないように消す。原因を突き止める。
違うのはそれが火でないことだ。
『木崎さん、スタンバイOKです。』
女性の声が部屋のスピーカーから出てくる。
「よし、指示を出すまで待っていてくれ」
『了解、…あっ』
「どうした?」
『標的ではないのですが、奇妙なアクセスをしているユーザーが』
木崎の視線がモニターから外れる。何かを思案したときに出る癖のようにも見える。
「新手のハッカーですかね?」
「神谷、すまないがそのユーザーのアバターをだしてくれないか?」
木崎の中にぼんやりと不安があった。
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