case1 始まり

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「君は将来何になりたいんだね?」  落ち葉がガサガサうるさい帰り道、ガサガサうるさいのは落ち葉だけではなかったが、とにかくうるさい。  確かにオレが悪い、進路希望表を第一から第三の欄までキレイにしていたのだから。それで、こんな暗い時間まで説教を食らっていた。  歩きながら、今日のことを思う。  何一つ教師から目を付けられるような派手な事はせず、赤点補修が嫌なだけで成績はクラスでは真ん中より上、そんなオレが何故進路で白紙を書いたのか。  単純だ、なりたいものがない。そもそもやりたいことがない。適当にクラスメイトとバカやって、今を楽しませてもらってる。  なりたいものが無いのは罪か?悪か?  そんなくだらない考えの中、家に帰るとおふくろはパートに行く時間だった。玄関で鉢合わせっておかしいが開けたらおふくろがいた。 「繋、おかえり」 「ただいま」  繋、これで『つなぐ』と読む。で、それがオレの名前。『しげる』ではなく『つなぐ』。で名字は岸川。 『きしかわつなぐ』…この冗談みたいな名前がオレ。 「遅かったわねぇ、夕飯はテーブルにあるから」「はいはい」  慌ただしく靴を履くおふくろに、オレは生返事をして靴を脱ぎ捨てた。 「こら、ちゃんとそろえなさい」 「へーい」
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