プロローグ

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返事をすると同時に、ペダルを踏み込んでそれぞれの標的へと散っていく。わずか数分のうちに漆黒の宇宙に沢山の爆発の花が咲き乱れては消えていく。単機で火力もあり、小回りの効く紋章機相手では戦艦クラスはとてもではないが歯が立たない。いくら弾幕をはろうともエンジェルたちはそれを鮮やかな動きですり抜けてエンジンや武装を潰していく。流石はあの“ヴァルファスク”を幾度となく退けてきたことだけある――いや。それだけではない。個々の能力を全て把握し、的確かつスピーディーな指示をだすタクトもそうだ。並みの司令官ならまだしも熟練者でもこうはいかない。グラールの艦隊をあっという間に半数近くまで撃墜したところで、突如オープン回線で通信が発せられた。  演説でもするつもりか? グラール 《気高き天使たちと、その司令官に告ぐ。我が名はグラール・ハイベル。誇り高き“RUNA”の戦士なり。貴殿らの戦いぶりに敬意を評し、このような振る舞いをさせてもらっている》 グラール・ハイベルは自らの素性を明かすと共に敬意を評すると言ってきた。話し方からしておそらくは正々堂々とした勝負を望む、そんなタイプだろう。姿を見ずとも威風堂々とした雰囲気を感じさせるこの男からは、少なくともそういう印象を受けた。 グラール 《我々はそちらの所持している機体が目的としており、貴殿らに危害を加えるつもりはない》 アニス 「危害を加えるつもりって、攻撃してきたのはテメーらだろうが!」 リリィ 《落ち着けアジート中尉。まだ戦闘中だ》 グラール 《貴殿らの所持しているモノを差し出すというのであれば、これ以上の戦闘行動は無意味と考え、それを望まぬ。が、差し出さぬというのであれば………》 討つ。その一言を言わなくとも、タクトはそれを悟っている。こちらは紋章機六機。向こうは数はあるものの前のような戦いぶりができる彼女たちなら、この程度の数は否にならない。勝ち目がないとわかっていれば、おとなしくこの場を退く筈。それをせずに交渉を持ちかけてきたということは、まだ何か策があり、そしてそれが確実に自分たちが勝つと信憑性の高いものだということ。つまり、まだ彼は本気などだしてはいない。いや、出すまでもないということか。
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