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昔から、そうだった。一生懸命頑張っても、結果的に全部空回り。人に誇れることなんて何一つない。
独りぼっちが嫌で、どんな時でも笑って淋しさをごまかして、自分を偽る毎日。大切なものは全部腕をすり抜けていく。だから、もつことをやめた。触れたら、ひび割れて粉々に砕け散ってしまいそうになるから。
でも、本当は誰かに必要とされたかった。たとえ利用されたとしても。
誰かに、必要とされたかっただけなんだ…………
ちとせ
「……以上が、AH-001“ナイトウィング”の適性テストの結果です――って、聞いてます?タクトさん」
試験結果の報告のためにタクトのもとを訪れたちとせは通信パネル越しにデレデレしている彼にため息まじりに問うた。
タクト
「じゃ、まだ仕事があるからまたあとでねミルフィー」
ミルフィーユ
《はい》
ちとせ
「……相変わらず仲がいいですね」
半分皮肉気味に言われ、さすがにチクリときたのかタクトはデスクに置かれた資料を手にとりパラパラとめくりだす。
タクト
「わかってるよちとせ。オレだって、自分の役目を忘れたわけじゃないよ」
彼の役目――それは、未だに見つからない“ゲートキーパー”を見つけることだ。そういった意味では、彼女の傍にいるよりこうして士官学校の特別講師として来るのもただ闇雲に捜すよりはずっと効率的だ。
タクト
「で、どうだいちとせ。“彼”の調子は」
ちとせ
「技術や個々の能力はともかく、H.E.L.Oとのシンクロ率がどれもイマイチで……」
もう何度となく繰り返したか知れない言葉を、ちとせはまた口にする。
タクト
「そうか………ん?」
めくっていた資料のうちの一枚に目を止め、タクトは見入った。
タクト
「………いや、そうでもないみたいだよちとせ」
ちとせ
「はい?」
フォルテ
「ごぉらぁ!!もっと気合い入れロォ!!」
学生
「す、すみませんシュトーレン教官っ!」
シミュレーターによる戦闘訓練中のなか、フォルテの怒鳴りつける声が部屋中に響き渡る。
フォルテ
「ったく、近頃のヤツぁ本当に……」
タクト
「だらしない?」
フォルテ
「おやタクト、来てたのかい」
タクト
「まぁね。相変わらず手こずってるようだね」
管制室からシミュレーションに励む学生たちの姿を見ながら、タクトは言った。
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