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タクト
「アスカ……紋章機に乗ってみる気はないかい?」
いきなりのことに、アスカは目をぱちくりする。
アスカ
「ぼ……ボクがですか?」
タクト
「そ。女神も君を祝福しているよ。アスカ・ティラミス」
アスカ
「……なんで、オレなんですか?」
まるで、絞りだすかのような声。
アスカ
「他の誰かだって、いいじゃないですか」
タクト
「……オレはねアスカ。君に強制してるつもりはないよ。これは“お願い”だ。乗るか乗らないかは君の自由」
アスカ
「…………」
椅子から立ち上がり、出口へと向かう。そしてすれ違い際に、タクトは彼に囁いた。
タクト
「だが、よく考えてほしい。君がここにいる訳を………」
その言葉にハッとなって、彼は自らの過去を思い返す。今まで触れることを禁じてきた、閉ざされた過去に。
全ては、あの時の為に………。
アスカ
「……乗ります」
やはり、絞りだすかのような声。だが、今度はそこに力強さがあった。そのことを聞き取ったタクトは確信を得た笑みを浮かべてそれまで握っていたドアノブから手を離し、振り返る。
タクト
「……どうやら、決まったようだね」
アスカ
「ここで断っても、きっとまた誘ってくると思いますから」
タクト
「……さて、なんのことかな」
タクト
「決意してくれたよ、彼」
“アブソリュート”へと戻ったタクトは満面の笑みでミルフィーユに報告した。
ミルフィーユ
「そうですか……良かったですっ」
晴れやかな笑みで振り返った彼女は待ちわびたかのように言った。
ミルフィーユ
「……これでようやく、一歩前進ですね」
タクト
「…………」
ミルフィーユ
「タクトさん……?」
先ほどの表情とはうって変わって、青ざめた表情で俯いていた。
タクト
「……ミルフィー、今でも思うよ。『どうして自分も“ゲートキーパー”じゃないんだろうって……」
ミルフィーユ
「タクトさん……」
タクトは強く拳を握りしめ、自分の無力さを嘆いた。そんな彼を、彼女はいつもの優しく明るい笑顔でそっとその手を包み込んで、あやすような穏やかな語調で言う。
ミルフィーユ
「タクトさんのせいなんかじゃありません。だから、そんなに思いつめないでください……」
タクト
「ミルフィー………」
ミルフィーユはもう一度にっこりと微笑みかけ、設けられていたテラスへと彼の手を引いて走り出す。
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