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シャルラがその女性の鮮紅色の双眼を真っ直ぐに見ると、小さく溜め息を漏らす。
「西宮の繁華街ね」
「私もついていきましょうか?」
「いらない」
「そう。気をつけてね?」
女性の言葉を最後まで聞かずにシャルラは立ち上がり、未だお茶を啜る龍生を軽く睨んだ。
「え? もう行くの?」
「私は時間を無駄にしたくない」
きっぱりと言い放つシャルラに男は苦笑を浮かべると、深々と頭を下げる。
「お嬢。ご武運を」
「ちょ、シャルラ! 待ってよ」
「もたもたするな」
準備の出来ていない龍生を尻目に力強く歩き出すシャルラ。慌ただしく立ち上がり、龍生はシャルラを追って店を後にした。
「……コルン。あの男は何者ですか?」
「客人と言っていましたから、招かざれる客ですね」
「招かざれる客か……大切な妹に変な虫でも付いたら大変ですね。至急、調べを」
先ほどまでの穏やかな声を翻し、女性は低い声で怒りを露にする。
「……御意に。クラース様」
そう男が返事をすると、女性は柔らかに微笑みを称えて二人が去っていった扉を見つめた。微かに開いたそこから僅な熱を帯びた風が店の中へと吹いている。
「まぁ、あの男がシャルラに相応しくないのは決まっていますがね」
女が結ばれた口から漏らす笑い声は、不穏に満ちていた。
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