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「タオス……」
男どもの中の一人から絶望を纏った声が上がる。目敏くも日本刀の柄に刻まれた“タオス家の家紋”に気付いたのだろう。
「タオスだと?」
シャルラの臙脂色の瞳が男どもを責め立てるかの如く煌めいている。事の顛末を傍観していた野次馬たちは、タオス家の人間だと気づくと我先にと逃げ惑った。
「ここに心疚(やまし)しいことが無い人間はいないと言うことか……お前は逃げないのか?」
シャルラや龍生を囲っていた男どももほとんどが逃げ惑う野次馬の波に紛れて立ち去ったのだが、ただ一人だけ小刀を構えたまま立ち尽くしている。青い瞳は濁ることなく寧ろシャルラがタオスであることに喜びさえ覚えているかのようだ。
「タオス家の人間は娘でも強いと聞いています。一度、殺ってみたかったんだ」
長い黒髪を一つに束ねるその男を龍生はじっと観察する。そしてすぐに男どもと戦う前に確認した顔の中に、合致する顔がないと気付いた。
「シャルラ。こいつはさっきの男ども中にはいなかった」
「へぇ、よく見てますね。あんな奴ら、ビビって逃げてしまいましたよ」
クスクスと笑い声を漏らすと、男は冷笑を二人へと向ける。
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