壱 ここで会ったが何年目?

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  「さて、そろそろ時間です。本気を出していないなら、出してくださいね? タオスのお嬢さん」  男がやんわりと微笑むと、シャルラは気を引き締めて男からの攻撃に備える。男の動き出しはゆっくりとしていて、感知出来ないわけではなかった。  しかしその次の瞬間、シャルラには男がどこに行ったのか解らなくなる。 「ふふ」  男の笑い声が左側から聞こえるまで、気配や物音さえシャルラには感じ取れなかった。  シャルラが死を覚悟するが、いつになっても来るはずの痛みが来ない。 「まさかキミの方が僕の速さについてこれるとは……タオス家では無いなら、どこの人間なのですか?」 「僕はアンタの速さに追いつくほど強くはないよ。僕はただ、考えただけだ」  気づけばシャルラの背後に龍生が立っており、男を確認すると男が左手に持っていた小刀が地に落ちている。龍生は男の右手首と共に右手の小刀ごと握りしめていた。龍生の手からは鮮血が流れ、地面へと落ちる。 「アンタがどう動くのか、僕はどう動けばいいのかを」  痛みを顔に出さず笑顔で答える龍生の目を見た男は、声を失う。それは龍生の熱を帯びない翠緑色の瞳に、恐怖を覚えたからだろう。 「そ、そうでしたか……キミはあの人の……」  震える手で小刀から手を放すと、男は後ずさりをした。その口から乾いた笑い声が漏れる。  
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