壱 ここで会ったが何年目?

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   夏へと変わりゆく日射しから隠れるように少年は長い緑を垂れた柳の下で涼んでいた。  傍らの河川から吹く風が、彼を癒す。少年の手に握られているのは古びてはいるが、手入れの行き届いた竹笛。少年は柔らかい笑みを溢すと、竹笛を口に添えた。  少年の黒髪が河川からの風で柳と共に靡く。その風に乗って少年の笑みのように柔らかい音色が辺りに広がった。  少年の齢は十八ほどだろうか。いや、もう少し若いかもしれない。若く整った顔立ちが絵画のような雰囲気を増長させていた。  少年の周囲に集まるのは小鳥やのら猫、のら犬などの野生の鳥獣。少年を警戒することなく近づき、安心しきった様子で少年の奏でに耳を傾けた。  突如、滑らかに動いていた少年の手が止まる。ぷつりと途絶えた音に、鳥獣たちは我に返って一目散に少年の側を離れていった。  遠くから響くのは何者かの叫び声。それは時を経る度に、こちらに近づいてくる。  その速さからして、その声の主はこちらへ駆けているようだった。 「待ちやがれ! このアマ!」  彼が声のする方を見る。すると、強面の男に追い掛けられる少女がいた。  馬の尻尾のように束ねられた少女の黒い長髪が揺れ、美しい弧を描いて上下する。  少女は少年と同い年ほどだろうか。自分よりも大きく力がありそうな男に怒号を投げられながら逃げていると言うのに、恐れ一つ抱いていないようだった。  
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