壱 ここで会ったが何年目?

20/33
前へ
/33ページ
次へ
  「……あの人? 誰だ。それは」  男の隙を狙ってシャルラが刀を振り回したが、男は軽々とそれを避ける。およそ人間とは思えない跳躍で、屋根の上まで飛ぶとシャルラと龍生を見下して笑った。 「次こそは本気を出していただきたいものです。タオスのお嬢さんにも、貴方にもね」  くすくすと楽しげに笑うと、首を左へと傾げる。その表情から笑顔は消え去り、大きく見開かれた瞳は暗く濁っていた。先ほどまでは晴れ渡る昼の青空と同じだったそれは、今は夕陽も沈み夜を迎える刹那の紺色の空と化している。 「本当に楽しみです。アナタガタニアウノガ」  男は空を仰ぎ身体中に太陽の光を浴びていたが、それでも溢れ出る淀んだ黒い靄(もや)は浄化されることはない。鼓膜にこびりつくかのような笑い声を残し、男は屋根から屋根へと移動して何処かへ跳び去ってしまった。 「逃げられたか……」 「龍生! 何故逃げなかった!」  大きな溜め息と共に怪我をしていない方の手で頭を掻く龍生の胸ぐらをおもむろに掴むと、シャルラが怒鳴り付ける。 「ふぇ?」 「ふぇ? じゃない! 逃げなかった訳を話せ。私は、龍生の助けがなくとも……!」 「わかってるよ。シャルラは僕がいなければ、アイツを倒してた。その刀を抜いて、生死を問わずにね」  へらへらと笑いながら話す龍生に対し、シャルラは更に苛立ちを募らせた。  
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加