壱 ここで会ったが何年目?

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  「傷つけるのも、傷つけられるのも、傷つけているのも、見たくないというわけか。何故だかは知らないが、そんなことを言うなら……」 「ちょ、ちょっと待って。痛い! 今、ものすごく痛い!」  シャルラが長々と説教をしようと口を開く一方、龍生は流れ出る鮮血を止めようと手首を押さえながら叫ぶ。 「頭にきてたみたいで、強く握っちゃった。痛い、ホンット痛い!」 「喧しい。止血すればいいだろう」 「止血するための布がないから騒いでるんだって」  焦った様子を見せる龍生に呆れを露に溜め息を漏らす。そして徐(おもむろ)に髪を束ねている布を掴むと、勢いよくほどいた。 「全く……喚くくらいなら、ついてこなければいいものを」 「だってなんか面白そうだって思ってさ」  布を龍生の手に巻き付けて応急措置を施すシャルラ。お世辞にも上手いとは言えないその手際に、龍生は微笑みを漏らす。 「……龍生。君子危うきに近寄らずという言葉を知っているか?」 「虎穴に入らずんば虎子を得ずっていう言葉もあるよね」  龍生がそう切り返すと、シャルラは怒りを露に布を強く締め付けた。 「痛いよ、シャルラ」 「うるさい。お前の文句は聞かん。龍生は戻れ。その出血では、早めに治療した方がいいだろう」  頭を抱えるシャルラに対し、龍生はにんまりと笑ってみせる。その表情を見たシャルラは更に溜め息を漏らした。  
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