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「や、だ」
「龍生! これは私の仕事だ。一般人がこれ以上首を突っ込むな」
愛らしく笑ってみせる龍生に対し、シャルラは怒りを露に龍生から視線を反らす。
「シャルラが傷の手当てをするなら、僕は甘んじてシャルラの要求を飲むよ」
「馬鹿! 龍生の方が酷い傷だろう。私の心配よりも、自分の心配をだな……!」
微笑むばかりの龍生と、怒るシャルラ。端から見ればただ痴話喧嘩をしているだけのようだ。吹き抜ける風がさらってきた桃花の馨りと、花びらが二人の回りを舞う。
「取り込み中のところ悪いが、ついてきてもらおうか」
気配無く龍生の背後に四十代ほどの強面の男が立っており、威圧的に二人を睨み付けた。顔面に刻まれた幾つかの傷が男の怖さを冗長させている。
シャルラは龍生に気を取られていたとは言え襲撃を警戒していたが、この男が話すまで気づかなかったことに驚きと焦りを覚えた。
油断すれば殺られると全身で感じ、素早く刀に手を掛ける。龍生のたしなめるかのような視線にも気付いたが、圧倒的に分が悪い。下唇を噛み締めて、斬ることを決意した。
「動くな。シャルラ=タオス。動けばこの男の首が落ちるぞ」
気づけばその男が持つ刀が龍生の首に当てられている。
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