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「全くダオレの奴ときたら……我々は歩きで行くしかないがそれでもいいか?」
苛立ちを露にする龍生へ申し訳ないと言わんばかりに眉を下げてジアンは溜め息を漏らす。龍生の近くで蹲っていた男が呻き声を上げて起き上がった。
「……別にいいけど、ちょっと待って」
男の方へと身体を向けた龍生は白い湿布のようなものを投げつける。
「……これでも付けて休め。もし薬惑いを辞めたかったら風柳館(ふうりゅうかん)に来ればいい」
そう言い捨てる龍生が下唇を噛みしめ、ジアンを睨んだ。
「あんたは……ジアンだったか? 行こう」
「柳林の御子息も来てくれるとなればカシラも喜ぶだろう。タオスの娘が乗り込んできたと聞いた時は正直、肝を冷やしたがな」
龍生に促され、歩き出したジアンが安堵と共にそう溢す。シャルラがダオレに連れ去れたからなのか、逃げた人々は戻ってきていた。
「僕はこんなにも薬惑いが増えてると思って無かった。ここの元締めは何をしてるんだ」
「……それについてはカシラが話すだろう。薬惑いには我々も手を焼いている」
道を歩く二人の頭上に輝く太陽だけが強い光を放ち、影を色濃く表す。暫くすれば真夏が来るのだろう。
龍生は手で右目を覆うと、気だるげに行く先を睨み付けた。
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