壱 ここで会ったが何年目?

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  「理紗(りしゃ)様おられまさ?」  紅い壁と扉が続く中、屋敷の最奥だけが紅い扉に異彩を放つように翠色の装飾を施されていた。その部屋の前に立ち、ダオレが声を張り上げるとゆったりと扉が開かれる。 「ダオレ? どうしたの、その子……」  開いた扉の隙間から蒼い眼が現れた。微かに見える髪は黒く、しなやかに長い。 「頬に傷がありまさ。治療をお願いしませ」 「まぁ……こちらへ」  扉から伸びてくる白い手が冷たい空気を運んできた。シャルラが思わず息を飲んでその指先を凝視する。細く長い白い指は虚空を泳いでシャルラを誘っていた。 「安心してくだせ。理紗様の腕はかなりのものでさ」  ダオレは大きなため息を漏らし、シャルラを丁寧に降ろす。ダオレの金の目を見つめ、シャルラは妙な違和感を覚えた。 「ほら、さっさと行ってくだせ。あの二人が戻る頃にはよびまさ」  ダオレに背を押され、シャルラは引き込まれるように女の手が伸びる部屋の中へと入っていく。余韻のように響く扉が閉まる音は酷く耳障りで不調和音の乾いた旋律だった。  固く閉ざされた扉を見つめ、再び大きなため息を漏らすとダオレはその場を後にする。  肩ほどの長さで切り揃えられたダオレの黒髪が風に靡いていた。  
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