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少女は迫り来る男の気配を背後に犇々と感じ、舌打ちを一つ漏らす。その様子から見て男を撒いてしまう腹積もりだったのだろう。
しかし、今二人が走るのは見晴らしの良い河川敷。隠れることのできる建物は一つもなく、あるのは川原に沿うように植えられた柳だけだ。
川の果てまで続くであろう一本道。道の分かれ目まではまだ遠く、道を反れて草むらを走っても男は撒けそうに無かった。
少女は溜め息を溢し、少年がいる付近で足を止める。その様子を目にした男も同じように足を止めて、下卑た笑みをその醜悪な顔に貼り付けた。
「やっと観念しやがったか」
ぐふぐふと男の喉奥から気味の悪い笑い声が漏れ、その醜さに少女の眉が歪む。
「ちょっと、おっさん」
二人の一部始終を柳の下で見ていた少年は仕方ないと言わんばかりに罰の悪そうな表情で立ち上がった。
「あぁん? 関係ねぇガキはすっこんでろ」
凄みをきかせた顔で少年を威圧する男。しかし少年はたじろぎさえしない。
「人がせっかく助けて上げようとしてるのに、そんな言い分はないんじゃないかな?」
「助ける? そこのアマをか?」
「違うよ。おっさんをだよ」
呆れたとも言わんばかりに少年は少女の手元へ視線を送った。つられた男がそちらを見ると、少女の手中では家紋の刻まれた刀が今まさに引き抜かれようとしている。
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