壱 ここで会ったが何年目?

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   赤を基調としたソファに黒みを帯びたテーブル。部屋の隅には高級感漂う食器棚に金の絵付けがされた皿が並んでいた。  天井にはシャンデリアを模した照明が橙の光を放つ。金持ちの道楽のようには見えるが、荘厳さが漂って嫌みさを打ち消していた。 「ここでお待ちくだせ。今タオスのお嬢様を呼んできまさ」  龍生の回答を待つわけでもなく、ダオレは何の感情もこもらない表情を変えず言い切るとそのまま部屋を後にする。  歓迎されているのかいないのか茶を出してくる気配はない。龍生は仕方ないと言わんばかりにソファに座ると、シャルラが不器用に布を巻いた手を見る。  懐から怪しげな軟膏の入った小瓶を出すと、手慣れた様子で布をほどいた。痛みに顔を歪める事なく、軟膏を傷口に塗ると再び布を巻く。シャルラとは異なり、片手であっても手間取らずにキレイに巻かれたそれを満足そうに見ると大きくため息を漏らした。 「こんなことばかり上手くなってもな……」  ため息と共に漏れた言葉にハッとした表情で口を塞ぎ、そのまま頭を抱えて俯く。 『……はじめまして! 君は?』  脳裏に浮かぶ映像が彼を駆り立てていた。花びらが舞い散る中で脳裏の少女は軽やかに笑う。その姿は何処までも陰りが無いように見えた。  
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