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「何故、貴方の目の前で流血沙汰にしてはならないというのだ。そちらの都合など、私には関係ない」
「何故って理由はいくつかあるけど、君だって聞きたい訳じゃないんでしょう? ……ところでおっさん。今のうちに逃げなよ。何のために時間稼いでると思ってるの」
男の方へと振り返り、少女とは対照的な微笑みを向ける少年はタオス家を目の前にしていると言うのにとても陽気だった。
「す、すまねぇ……!」
男は小さな石に躓きながらもその場から去っていく。短い溜め息を漏らして刀を鞘に戻すと、少女が少年を鋭く睨み付けた。強い風が二人の間を吹き抜ける。
「簡単に逃して良かったの?」
「ただのゴロツキ程度に時間を割くまでもない。アイツは外れだ」
呆れを滲ませて少女が踵を返すとそのまま確りとした足取りで歩き出した。着物の袖が風に揺れ、薄紅色が少年の視界を彩る。
「ふぅん……」
「何故、私についてくる?」
ある一定の距離を保ちながらも自らの後を追ってくる少年を一瞥し、少し歩を早めた少女。それでも少年は笑顔を浮かべたままで、足を止めようとはしない。
「だって気になるじゃないか。タオス家が“ただのゴロツキ”を逮捕せずに逃がしたんだ。様々な理由をつけて捕らえられるのに」
少女が足を止め、少年を真っ直ぐに見る。少年も立ち止まると先ほどまでと同じように微笑んだ。
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